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歪な契
サトミが自分の家から持ってきた手荷物は極端に少なかった。
ただ、両手で抱えるようにして植木鉢を持っていた。お気に入りのハーブなのだという。ちょうど求職中だったというサトミは、進んで二人分の家事をするようになった。
「私、家事やお料理好きですから」
そう言って笑うサトミが作る料理は実際にうまかったし、細かいことまできちんと行き届いている。だから俺はコンビニ夜勤以外の煩わしいことから解放されて、ごろんと居間で横になることが増えた。
「奇妙な葉っぱだなぁ」
サトミが持ってきた鉢植えでしげっている、深い緑色をした葉を指先でつつく。ハーブってのはどうにも流行っているらしいが、味さえ悪くなきゃどうでもいい。
俺は毎日、サトミを抱いた。
明け方、夜勤から帰ってきたときに抱くことが多いが、休みの日に一日中抱いていたこともある。ただ、奇妙なことにサトミは身体を重ねる際も決して大きめのカーディガンを脱ごうとはしなかった。
「お前さ。ずっとカーディガン着てるの、なんで?」
「腕を見られたくないのです」
恥ずかしそうにうつむいたサトミの顔を見て、しつこく問いただすことができなくなった。サトミは俺がいない間に着替えなども済ませていて、サトミの腕を一度も見たことがない。人より長い腕を気にしているのだろうか。
腕がちょっと長くたって、気にすることなんてないのに。
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