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「こんなもの、うちにあったっけ?」
夜勤からあがり家に帰ると、テーブルに見知らぬ花瓶がおかれていた。サトミが自分の家から持ってきたのだろうか。首を傾げながら冷蔵庫に手を伸ばした。仕事上がりの一杯は格別である。
「おいおい、マジか?」
冷蔵庫のなかには食材がぎっしりと並んでいた。
中にはひとつで数千円する高級な肉もある。サトミにはとくに食費などは渡していない、よほど財布に余裕があるのか、それとも俺に気に入られようと奮発しているのか……。
台所を見回すと、うちにはなかった調理器や調味料まで増えている。
「おかえりなさい、秀明さん」
「ただいま。お前、これどうしたんだ?」
台所に並んでいるものを指さすと、サトミを口角をきゅっとあげて笑った。
「おいしいお料理を作れたら、秀明さんが喜んでくれるかと思って」
「サトミ……愛してるぜ」
しおらしい言葉に嬉しくなって、サトミをぎゅっと抱きしめた。
サトミが手に持っていたビニール袋を置いて、俺の背中に腕を回した。視界のはしに映ったビニールの中身を見て、俺は声をあげた。
「おい、これ……」
それは切り取った商品タグであった。
本来店で回収するであろう管理タグまで入っている。
サトミの長い腕。
監視カメラに映った、あの鮮やかな万引きの手口を思い出す。もしかして、冷蔵庫やテーブルにあったものはすべてサトミが盗んできたものなのではないか?
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