プロローグ 嵐の前の静けさ・日常

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さて、ここまで至って普通な会話をしていたが、彼らの住む地域は、少し変わったところがある。 彼らの住む街の名は、『風見野』(かざみの)という。 風見野は、別名〈風と科学と魔法の街〉なんて呼ばれている、最先端の街である。 ちょっとした魔法を含めれば、魔法を使える人の割合は7割を越えるほどの魔法都市でありながら、 魔法の使えない人のための施設も多数存在する、良心の塊のような街だ。 ここまで発展したのも、風見野に元々存在していた豊富な魔力と、風車を勢いよく回してくれる山間の強風のお蔭である。 〈風と科学と魔法の街〉の風の部分は山まで行かないと実感できないが、科学と魔法なら至るところで見ることができる。 例えば──── 「これ見てよユウくん、昨日気になって買ってみちゃったんだよ」 「なんだこれ……ドライヤーか?」 ドライヤーにしてはコードがないし、おもちゃにしてはサイズがデカイ。 「スイッチオン♪」 咲がスイッチを入れると、ドライヤーが勢いよく熱風を吹き出した。 ドライヤーほど電力を食う代物が、コードレスで使えていることに驚く。 「おお、すごいな、これ。どうなってんだ?」 「魔力カートリッジが、とうとう一般化されたんだよ!」 魔力カートリッジというのは、電池の代わりに、長方形のカートリッジに魔力を詰め込んだものだ。 カートリッジ内の魔力を雷属性に変換できれば、その電力で家電が動くんじゃないか、と前から密かに研究されていたそうだ。 「まだまだ普通のドライヤーの3倍近い値段はするけど、これでリビングでも髪が乾かせるんだよ!」 「なるほど……便利だな、これ」 素直に関心してしまう。 ────こんな風に、風見野では、科学と魔法のコラボレーションのような技術が進められている。 まだまだ研究中のことも多く発展途上だが、進めていけばもっと夢のようなこともできるだろう。 俺はこんなこの街のことが大好きだ。
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