平行線 01

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「とりあえず、暑いし直の部屋行かね?」  ひとのアイスを半分食べておきながら、大輔はしれっと暑さを訴える。直人はこれ見よがしに溜め息をついて不承不承立ち上がった。  唇が触れたことなど、とっくに終わったことなのだろう。  いつだってそうだ。直人が思い悩んでいる間に大輔はすぐに切り替え、終わったことになっている。あれこれ悩む暇すら与えないかの態度は、薄情にも見えた。大輔にとって直人とのことは、きっと取るに足らないことなのだろう。全てがただの日常だと思われているに違いない。  やるせない気持ちも、じりじりと胸を焦がす焦燥も、大輔の前では意味のないものだ。 「じゃあアイス買えよな」  諦めまじりにそう言えば、大輔は小さく吹き出して了承の返事をした。  天を仰げば、太陽が全てを溶かしそうな勢いで光り輝いている。眩しさに目がくらみ、一瞬何も見えなくなった。 「おい、ガキか。目ぇ悪くするだろ」  被っとけ、と自分が被っていたキャップを脱ぐと、無造作に直人に被せた。  大輔の整髪料と汗の匂いの混じったキャップを緊張しながら被り直し、何も言わず受け入れたが、どきどきと打ち鳴らす心音が大輔にまで聞こえているのではないかと心配になる。  程なくして辿り着いた、直人が寄った駄菓子屋の軒先のアイスケースの中から、大輔はソーダアイスを取り出す。 「おばちゃん、ソーダアイス1本な」  店の奥でテレビを見ている店主に声をかけ、プラ袋を開けると直人の口に無理やりねじ込み小銭を取り出した。 「むー!!」  会計を終えて大輔が戻ってくると、直人が食べているアイスを横取りする。 「もー! お前どんだけ自由なんだよ!」 「?」 「きょとん顔してんじゃねーよ。イラっとするわ」  直人は悪態をつきなが腕組みしてそっぽを向く。  振り回されすぎて疲れる、どころか、大輔の行動にいちいち反応してしまう自分に嫌になる。 「カリカリすんなよ。何年の付き合いだよ」 「何年も付き合ってきてるからイラッとしてんだよ」  すかさず返せば大輔が直人の肩に腕を回し、ぐっと顔を寄せてきた。  反射的に離れようと体を仰け反らせば、肩に回った腕が体を引き寄せ直人の顎を捕らえた。
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