平行線 01

1/4
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

平行線 01

 太平洋高気圧が勢力を拡大し、太陽は熱量を増す七月下旬。いつの間にか梅雨はとっくに明けていて、日差しの強さに目を眇める。  立花直人は吹き出す汗をそのままに、重い足を引きずって、待ち合わせ場所である木陰のある公園のベンチに腰を下ろした。途中、近くの商店街の駄菓子屋で、熱中症対策にソーダ味の棒アイスを買ったのは正解だった。そしてプラ袋の口を開けると、棒側ではなくアイス側だったのはいつものことだ。  またやった、と思いながらアイスを咥えて袋から取り出す。齧りきる前に手早く棒を掴み、事なきを得た。齧れば、しゃくり、と食べやすい固さにまで溶けていて、気温の高さを物語っている。  喉を通る冷たさに、吹き出していた汗が幾分か落ち着いたような気がする。  黙々と食べ続け、半分以上胃袋に収めたころ、背後から、待ち人である笹川大輔がベンチの背もたれに肘を乗せて顔を出した。すかさず直人の食べかけのアイスを齧る。よく知るキャップの鍔がにゅっと現れたときには、驚いて一瞬息が詰まった。  不自然に思われない程度に顔を引いて大輔の方へ顔を向ける。 「全部食っていい?」  大輔の投げかけた言葉に意味はなく、直人が了承する前にガツガツと食べ始めた。  大輔とは幼稚園から高校まで一緒の幼馴染だ。お互いの家の行き来はさることながら、直人が不在でも、直人の家で当たり前のように大輔は晩ご飯を食べている、最早家族同然の付き合いだ。  その家族同然の大輔に、直人はもうずっと、片思いをしている。報われる見込みのない片思いをーー。 「おい、食っていいって言ってないだろ」  直人は息を整え、平静を装って不満を述べる。 「直みたいにちんたら食ってたら溶けるだろ? 優しさだよ」 「はあ?!」  勝手なことを言うなと声を上げようと口を開く。すると、大輔は最後の一口を口で棒から抜き取り、アイスを咥えたまま直人にぐっと顔を近づけ、そのまま口の中に押し込んだ。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!