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二人と一頭と一人
聞こえる。伝わってくる。お前の記憶も、感情も、意思も。お前が何を望んでいるのか。俺だって同じだよ。俺達は、そう遠くは違わない。お互い、不格好に生きてきたからな。俺達だけじゃない。他の奴らだって同じ気持ちさ。だから俺達は、今からこいつを。
「一つになろう、大黒桜」
呟いて、季節外れの薄桃色の花弁が辺りに吹き荒れた。生命力が終わりに向かって急加速する、いつもの感覚。同時に、全身の皮膚が一斉に生まれ変わろうとするように、粟立った。外側だけじゃない。骨や筋肉、内臓、脳細胞すらも、一瞬一瞬を遥かに置き去りにして、変わっていく。
もう止まらない。もう戻れない。
「なぁ、お前は俺と一緒にいて楽しかったか?幸せだったか?」
「うーん、微妙」
「えぇ…」
「まあ、モックさんがいなくなった後のこれからの世界よりは、多少は楽しかったんじゃないですかね?」
「はっ。なんだよそれ、めっちゃ幸せだったんじゃん。俺がいなくなっても、夜泣きとかするなよ」
「泣きませんけど。そっちこそ、私がいないからってべそかかないでくださいね」
「かかないが」
桜吹雪の中で、お互いの顔が見えなくなるように、小さな頭を胸に抱えた。喉の奥で押さえ込んでいた全てが、出口を求めて暴れ始める。
数秒の後、少女は大きく鼻をすすりながら俺から距離を取った。
「じゃ、モックさん」
いってらっしゃい、と。
いつものように生意気な笑顔で、そう言った。
「行ってきます」
俺は、いつもと同じように、笑えているだろうか。
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