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「モックさーん!!」
「はーい」
森の奥から全力疾走でこちらに向かいながら、俺の名前を呼ぶのは1人の少女である。名前をテルンと言い、数年前にこの森の入口で倒れていたのを担ぎあげて小屋に持ち帰り、気持ち強めの往復ビンタで起こしてやったのがこいつとの出会いだった。レディーに手を上げるなんて最低!と、傍にあった花瓶で頭を殴られた時は流石に殺してやろうかと思ったが、なんとか思いとどまった末に今がある。
「ヤバイヤバイ!ちょーヤバイですって!!」
非常に興奮した様子のテルンは、丈が短すぎてスカートの隙間から粗末な下着がチラチラ見えるのも気にすることなく、木と木の間に吊り下げたハンモックに寝そべる俺の横で飛び跳ねていた。
「おぱんつ見えてるぞ」
「きゃ!えっち!」
そう言ってハンモックを引っ掴み、大きく上に引き上げるクソガキ。結果俺は頭の後ろで手を組んだまま地面に落ちるわけだ。鼻がとても痛い。
「いたああああああいいい!!!!!!!」
「うるさいですねー。そんなことより早くこっち来てくださいよ!」
夜な夜な聞こえてくる魔獣の遠吠えよりもけたたましい悲鳴をあげるも、少女には届かない。なんとか立ち上がったばかりの俺の袖を持って、グイグイと元来た方へと引っ張る。がっつり手を掴むことはしない辺り、思春期である。
「もー、何がヤバイの。説明してよ」
尋ねながら、どうせまた大した事ではないのだろうと心の中で呟く。こいつはいつだってそうなのだ。必要以上に事を大袈裟にする癖がある。とある真夜中に、例によって花瓶で文字通り叩き起され、何かと思えばただの殺人ゴキブリが自室に出ただけだったりもした。
「千年熊が出ました!!!!」
「それまじでヤバイやつ!!!!」
急ブレーキをかけた反動で袖が手からすっぽ抜け、哀れなテルンはもんどり打って倒れ込み、そのまま三回前転して木にぶつかって止まった。
「いったあ~!!なんで急に止まるんですか!!」
「死にたくないからに決まってるでしょ!」
なんでこいつは世界危険生物ランキングワースト10に入る生き物の所に俺を連れていこうとしてるの。
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