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この物語を書いた頃、真人は鷹田との関係を憂いていた。ゆかりに会わなくてもずっと考えてきたことだった。
いつか鷹田はこの不毛な関係に見切りをつけて自分のもとを去ってゆくだろう、と。
どんなに望んでも、この世には自分の力ではどうしようもないことがある。
ラピも最後にはそう悟り、数えることをやめたのだと、そんなふうに思っていたような気がする。
「あの話、『星を数えるひと』の主人公は、どうして最後に微笑んだと思う?」
この話を好きだと言う鷹田に、ふいに訊いてみたくなった。
「……許された、と感じたからだろう。自分の手に負えないことに出逢って初めて、彼は星の美しさに気付いたんだ。『頭』ではなく『心』で」
真人はハッとして鷹田の腕の中で小さく身を震わせた。
「生きることは理屈じゃない。すべてを理解する必要もないし、形に捕われる必要もない。何もかもを一人で背負えるわけじゃないと気づいた時、彼はようやく解放された。…と、俺はそんな風に感じたんだが」
幾分照れ臭そうな声で鷹田が告げる。
(そんな風に受け取ってくれてたんだ――)
それはそのまま真人へ向けた言葉だと気付く。真人が諦めかけていた傍で、鷹田は二人で歩むための道を探してくれていたのだと判る。
真人はこみあげる熱い想いとともに、愛しい男の胸に横顔を埋めた。
「……お前を好きになって良かった。ほんとに今、そう思うよ」
返事の代わりに優しく髪を撫でられて、またいっそう愛しさが募ってゆく。
きっとこの想いに底はないのだろう。
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