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「こんなこと、あなたに言ったって知ったら、きっと修ちゃん、軽蔑するでしょうね。でもあなたを選ぶ理由が愛しているからじゃなく、放っておけないからだっていうなら、私は認めない。そんなのは彼のためにならない。修ちゃんには、絶対幸せになって欲しいんです」  ブレない瞳が真人をまっすぐに射抜く。羨ましいほどの強さだと思った。  細身だが豊かな胸を持つ、若くて健康そうな彼女。鷹田の隣に寄り添えば、きっととても似合いだろう。  こんなふうに一心に鷹田を想う彼女なら、良き妻、良き母となることが出来るに違いない。  そして鷹田も血を分けた愛する我が子を、その腕に抱くことが出来るのだ。  それは真人からすれば望むべくもない、眩暈がするような「幸福」だった。自分では決して鷹田に与えられない、幸福。  惨めさが真人を深く俯かせた。 「……犠牲、ですか」  掠れた声で呟くと、相手がハッと息を呑んだ気配がした。  真人は蒼ざめた両拳にまたぎゅっと力をこめ、顔をあげると、ゆかりに向かって儚く微笑んだ。 「――そうかもしれませんね」  ぱしゃん、と水が跳ね、真人の顔を濡らした。小さな子供がすぐ傍で湯に飛び込んだのだ。  物思いから醒め、真人は両手で湯をすくい、顔を覆った。そのまま熱くなる目頭を押さえて俯く。細い肩がちいさく揺れた。  この旅行が終わったら、別れを告げなければならない。
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