5/8
前へ
/31ページ
次へ
 あまりにも自分勝手な言い草だ。きっと鷹田は怒り、心底呆れ果てて、すぐにでも部屋を出て行くだろう。  そして今後もしどこかで会っても、真人には目もくれないに違いない。  その想像だけで胸が潰れそうになる。だけどこの芝居だけは貫き通すつもりだった。  なのに――。 「ウソだな」  端的に告げられ、真人は思わず顔をあげた。 「……え、」  鷹田は腕を組んで、真人をまっすぐに見おろしている。 「それ、お前の癖だ」 「え?」 「ウソつくとき、そうやって無意識に、左手の親指を右手で握る」  指摘されて真人はハッと自分の手を見た。極度の緊張を抑え込むかのように、左手の親指を右手の拳で固く握りしめていた。  茫然と鷹田を見上げると、ふいに長い腕が伸びてきて強く抱きすくめられた。 「……愛想つかしたのか、俺に」  ドクン、と心臓が跳ねる。 「違ッ」  思わずすがるように鷹田を見上げてしまう。鷹田は苦しげに目をすがめると、 「じゃあ、どうして急にそんなこと言うんだ」  少し掠れた声で問いを重ねる。鷹田も緊張しているのだろうか。 (そんな、どうして)  判らない。判らないけれど、自分を抱き締める強い腕に、その温かさに、愛しさが溢れ出してしまう。 (離れたくなんかない。そんなの決まってる……!!)  だけど――。  真人が何も言えずに俯いていると、鷹田は焦れたように真人の腕を掴み、奥間へと引きずってゆく。  そこで軽く突き飛ばすように蒲団のうえに倒されて、真人は小さな悲鳴をあげた。  胸から倒れこんだせいで真人の浴衣の裾が大きく割れて、艶やかな太腿が晒されてしまう。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

450人が本棚に入れています
本棚に追加