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『青年は名前をラピといいました。町はずれのアパートメントに一人で住んでいます。  毎朝六時きっかりに目ざましが鳴り、ラピはおはようと言って体を起こします。けれど返事をくれる人はいません。ラピが目ざめる時は、いつもひとりでした。  まだうす暗い窓の外を、ぼんやりとながめます。 (今日は金曜日だ)  ラピはベッドから冷たい床のうえにおりると、正確に五歩を数えながら洗面台へと向かいました。 (中略)  隣駅から先生の家まではせいぜい三十分くらいです。けれどラピにとってはこれもひどく遠い道のりでした。  それでもご病気の先生に、週に一度顔を見せるために、ラピはその道をたどります。  家族のいないラピを育ててくださった先生は、今でもラピを自分の子供のように心配してくださっているのです。  先生がラピを毎週呼び寄せるのも、彼が外の世界を忘れないようにと考えてくださっているからにちがいないのでした。
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