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「綺麗だな……」  窓際に置かれたゆったりとした椅子の上で、鷹田の腕に抱かれながら、真人は来た時と同じ言葉を溜め息とともに零した。  凪いだ夜の海の上には、満点の星空が拡がっている。ようやく落ち着いた身体を逞しい胸にもたせかけて、うっとりと目を閉じた。  こうして大好きなひとの体温に包まれてまどろむのが好きだった。凄く安心して、この幸せだけで、生まれてきた意味があると感じるくらい。  無口で、感情表現に乏しいけれど、そのぶんいつも行動で愛情を示してくれていたのだと判る。  学生時代に真人の母が過労から入院したときも、鷹田は不安に怯える真人の傍にずっとついていてくれた。真人のことをいつも見ていてくれた。どれほど大切にしてもらっていたかに改めて気づく。  真人は輝く星空を見上げながら、『星を数えるひと』のラストを思い浮かべた。  数を数えることに疲れ果てたラピは、先生の元を訪ねるが、先生は病気ですっかり弱り、もう長くは生きられないことを知る。  心細くなったラピは、自分ももう、星の向こうへ行ってしまおうかと思う、と告げる。  すると先生はラピに一枚のチケットを用意し、「好きなだけ数えておいで」と言って、彼の頭を撫でてくれたのだ。
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