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『先生にいただいたチケットでラピは初めて飛行機に乗りました。
暗い夜の中を飛び立った飛行機は、ぐんぐんと空へ近づいてゆきます。
ラピは先生がどうしてこの夜の旅をプレゼントしてくださったのか分かりませんでした。
けれど自分もきっと、もうすぐ星のもとへと行くのだろうと思いました。
小さな窓の向こうには、真っ暗な闇がひろがっています。窓にうつる自分の顔は今にも泣きそうでした。
地上から離れてゆくにつれて、ラピは遠くにいる先生のことを考えました。
今ごろあの小さな町の、小さな家で、ひとりさびしく眠っておられるのだと思うと、ひどく胸が苦しくなりました。
機内の人々はもうすっかり目を閉じて、誰も話すひとはいません。
灯りを落とした飛行機の中は、まるで暗い宇宙をただよう棺おけのようです。
さびしくて、苦しくて、胸をかきむしりたいような気持ちになり、冷たい窓へグッと顔を近づけると、ラピの目に突然まばゆい光が飛び込んできました。
ハッとして目をこらすと、百万の漁火がいっぺんに焚かれたみたいな無数の星影が、ぶわああっと目の前にひろがって、ラピは思わず大きく身ぶるいをしました。
瞬きをするごとに流星があちらこちらで乱れ飛び、一瞬のうちに消えてゆきます。
ラピは夢中になってその流星を数えました。
ひとつ、ふたつ、…十、二十、…五十、百、……数が追いつきません。
千、二千、五千、一万……、星影はどんどん増えて、あるときは竜神のように天上へと昇り、あるときは絹のカーテンのようにひろがり、またあるときは慈雨のようにやさしく降り注ぎました。
それはあまりにも美しく、尊い光景で、見る者の心をシン、とさせます。
さっきまで流星の数を数えていたラピも、すっかりその数を思い出せなくなり、ただぼう然と、そのまばゆい光景を見つめるばかりです。
大きく見開かれた目からは、いつしか星のような涙がどんどんこぼれ落ち、キラキラと光っては夜の闇を照らします。そしてひときわ大きく美しい流星が夜空を滑ったとき、ラピは涙をそっとぬぐい、ひとり静かに微笑みました――』
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