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まず、ラピは駅からまっすぐにのびる並木道の、ケヤキの木を五本ごとにくぎり、道の右側と左側を交互に歩きます。
交差点に来ると、車が五台通り過ぎるのを待ち、信号が変わって五秒後に、横断歩道の白い線だけをふみながら渡ります。
それから次の曲がり角までの地面のブロックの数を正確に数えます。それが前回数えたものとちがっていると、たちまちラピの頭は混乱します。そういう時はまた交差点まで戻って一から数え直します。
すべてがこんな調子ですから、学校を卒業してからついた仕事はどれも長続きしませんでした。
こなした計算の確認をくり返しているうちに、本当にそれが正しいのかどうか分からなくなってしまうのです。
なんとか次の作業に移っても、先ほどの計算が本当に合っていたのかどうかが再び気になって、がまん出来ずにまた前に戻って確認しなおす、というようなことを繰り返しました。
最後にいた会社でも同じことがくり返され、きびしい夏が終わるころ、ラピはついに破れつしました。
机を太鼓のように両こぶしでたたき鳴らしながら、さけび声をあげて、床にころげ落ちたのです。
会社はその日のうちに、ラピに「ひま」を出しました。
それからは貯めたお金をくずしながらひっそりと暮らしていましたが、それももうすぐ尽きてしまうでしょう。
ラピはまだ遠い先生の家の方角をぼんやりと見つめながら、一度だけ見たことがある、父さまと母さまの写真のことを思い出していました。』
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