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部屋に用意された料理はどれも心尽くしのものだった。和洋折衷の、彩り豊かで繊細な料理たちは、忙しい日々を過ごす大人たちを束の間癒し、いつになく表情を緩ませる。
「うん、これも美味しい」
汁物を味わい、口許を綻ばせる真人を見て、鷹田はかすかに目を細め、ああ、と頷いた。
手酌で冷酒の杯を重ねながら、綺麗な箸捌きで刺身を口に運ぶ男に見惚れる。
ぴったりとした黒いTシャツに包まれた厚みのある肩や胸板、太い二の腕の逞しさが惜しげもなく晒されていて、その腕に抱かれる恍惚を知っている真人の目が熱く潤む。
奥二重の切れ長な目は思慮深く澄んでおり、高くまっすぐな鼻梁と、やや幅広の形の良い唇は、腕の良い彫刻家が精魂込めて掘り込んだ彫像のように、鋭角で艶っぽい陰影を生み出す。
どれだけ自分がこの男に惚れていて、身も心も奪われ尽くされているかを、真人は改めて思い知る。
ふいに目頭が熱くなって誤魔化すように小鉢の一つに手を伸ばしたが、苦手な梅肉がのっていることに気付き逡巡する。
「ん」と言って自分の小鉢を差し出してくれるのは鷹田だ。真人の苦手なものを彼はよく把握しており、いつもさりげなく引き取ってくれる。
そんな小さなことにさえ積み重ねてきた穏やかな日々を思い、真人はまた涙ぐみそうになった。
何度も必死に瞬きを繰り返す真人の様子のおかしさに鷹田は気付いているだろう。けれど何も訊かずにじっと見つめているだけだ。
(もう少しだけ……。あと少しだけ)
何も訊かずに、そばにいて欲しい。
真人はこみ上げる涙を懸命に笑顔に変えながら、鷹田の杯に酒を注いだ。
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