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 食事のあと急な仕事の電話で鷹田が席を立ったのを潮に、真人は独りで浴場へと向かった。  先方と話しながら、眉を潜めた鷹田が、待て、と目で真人を制したが、酔いを醒ましてから来いよ、と小声で告げると真人は逃げるように部屋を出た。   大浴場は気持ちの良い空間だった。露天ではないが、天井と壁の間に僅かな隙間があるらしく、適度な温度と湿度に保たれている。  真人は洗い場の奥まった場所で軽く汗を流すと、広い湯船に浸かった。  湯は少し熱めだったが、頭上からひんやりとした空気が流れこむおかげでのぼせることはなさそうだ。  腰から下だけ浸かり、時折手で湯をすくって冷えた肩にかける。柔らかい湯は真人の張りのある滑らかな肌をくすぐりながら滑り落ちていった。 ――修ちゃんには、もうこれ以上、誰かの犠牲になって欲しくないんです。  震えるような、哀願のような声が耳の奥に蘇る。  ひと月ほど前、突然真人の部屋を訪ねてきたその女性は、自分を鷹田の元婚約者だと説明した。従妹でもあり、幼い頃は親の事情でともに暮らしたこともあると。  よほど思い詰めてきたのか、唇は蒼ざめ、大きな瞳は不安定に揺れていた。  真人はひどい動揺を押し隠し、ともかくと彼女を部屋に招き入れた。熱いお茶を出して柔らかく勧めると、彼女は短く礼を言って、震える指で熱いカップに口をつけた。  それから少しして、落ち着きを取り戻した彼女は、複雑な表情で真人をしばらく見つめたあと、溜め息のように言った。 「ほんと、……綺麗なひと。修ちゃんの言ってた通り」   唐突な言葉に何も言えずにいると、彼女は自分の名を松瀬(まつせ)ゆかりと名乗り、改めて自分と鷹田との関係を説明した。
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