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「子供が欲しいって言ったこともあるんです、彼」  追い撃ちをかけるような言葉に、烈しく鼓動が乱れた。 「なのにどうしてあなたなのか。そう思ったらたまらなくなって、彼に訊きました。そしたらあのひと言ったんです。『放っておけないんだ』って」  ハッと真人は目を瞠った。  傷ついたように揺れる真人の瞳を見たゆかりの目に、一瞬喜悦の色がよぎったように思えたのは、卑屈な真人の思い過ごしだろうか。 「それでやっと判った。修ちゃんは昔から自分を押し殺してでも相手を優先するから。泣きつかれたら放っておけない。そういう人だから」  まるで真人が鷹田に泣きついて関係をせがんだと決めつける言い様だった。  だがそれは悲しいことに事実だ。  卒業の日の夜、真人が泣きながら想いを伝えたりしなければ、きっと鷹田は今、自分の傍にはいないだろう。  鷹田が子供好きなのは知っている。朗読会に来てくれた子供たちを、目を細めて見ていたこともあった。鷹田が良い父親になるだろうことは容易に想像できた。 「私は修ちゃんが何かを欲しがるところをほとんど見たことがなかったんです。だから珍しく子供が欲しいっていう願いを口にしたときは、嬉しくて、出来れば自分が叶えてあげたいって思った。でもそういう願いや希望も、修ちゃんはまた棄てようとしている。あなたのために。修ちゃんには、もうこれ以上、誰かの犠牲になって欲しくないんです」   今度こそ、彼女の放った敵意の矢が、正確に真人の心臓を貫いた。
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