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渾身の一作
加持先輩の家に招かれたのは、6月の末だった。
晴れが雨を押し出しそうな天候。
先輩の家は広く、入った瞬間花瓶に活けられた花の良い香りがした。
優しそうなご両親が、テーブルに案内してくれた。
事前に先輩から同席することは聞いていたけれど、やっぱりちょっと硬くなる。
お互い手さぐり。
小春は緊張しているし、ご両親は何だかそわそわしていた。
熱々のお茶と羊羹が出されたが、食べられる心境に無かった。
緑茶の湯気が消えるころ、ふすまがさっと開いた。
加持先輩の後ろに隠れるように、マスクをつけた女の子が立っていた。
透き通るような白い肌をしているが、健康的では無い。
きっと運動をしていないせいだろう。
黒い瞳には、好奇心と猜疑心が同居している。
「初めまして。栞奈小春です」
小春は深々と一礼した。
「加持、美樹です。絵、ありがとうございました」
可愛らしい声。だけど、小さい。
「座れよ」
加持先輩に促されて、美樹さんは小春の正面に座った。
ゆっくりと紐に手をかけ、マスクを取る。
写真で見てはいたけれど、実物で見ると思わぬショックがあった。
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