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娘がいなくなって四年。毎年,娘の誕生日が近づくと妻はパニックを起こした。
僕はその度に妻をなだめ,ガリガリになった妻が落ち着くまで抱きしめた。
娘がいれば十歳になる。毎年,娘の成長した姿を想像し,いなくなった娘のことを思った。
あんなに可愛かった娘の姿を僕は思い出せないでいる。
小さな手が僕の指をしっかりと握りしめ,簡単に壊れそうな脚を優しく拭いてあげたことは思い出せるが,それ以外は真っ暗な川の流れが僕の記憶をグチャグチャにした。
妻はガリガリの骨しかない腕と乾いた皺だらけの手で僕の身体を押しのけようともがいたが,僕は妻が大人しくなるまで抱きしめた。
妻の口元がヒクヒクと痙攣し,口からよだれを垂らして全身の力が抜けていくのがわかった。
虚ろな目から涙が流れると,僕の頬に伝わった。抱きした妻の頭をそっと抱え込み,優しく引き寄せた。
そして妻の耳元で「お前が娘を殺した」「お前は俺を裏切った」「一生この苦しみを味あわせてやる」「絶対に許さない」とつぶやき続けた。
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