死んだ子の齢を数える

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死んだ子の齢を数える

 朝は,眠い目を擦りながら不機嫌そうに朝食をとる娘の姿を横目で見ながら家を出る。  夜は,布団の中で小さく丸くなっている娘の愛らしい姿をそっと眺めるのが僕の日課になっている。  四十を目前にしてできた初めての子どもで,それまで妻は随分と焦っていた様子だった。 「四十までには子どもを産みたい」  それが妻の口癖のようになっていた。お互いの両親からも,そして妻自身も自ら相当なプレッシャーを与えているのは知っていた。  僕は日々の仕事に追われ,学生のころのような元気はなく,七時前に家を出て,深夜二十四時ごろに帰宅する毎日だった。  そんな生活のなかで子どもを授かるというのは,奇跡に近いと思う。  子どもを授かることができたのは,妻の頑張りがあったおかげだった。  妊娠がわかってからの妻は,ちょっとした段差にも気を配り食事にも相当気を使っていた。  満員電車は避け,喫煙スペースには近づかず,地元の建物のエスカレーターとエレベーターがある場所をすべて把握していた。  そして無事に出産を終えた妻は,妊娠前に比べてふたまわりほど大きくなっていたが,本人はまったく気にも留めていない様子だった。  出産を経験すると妻の神経は身体と一緒に太くなったのか,もう一人欲しいと言うようになったが,どうやらそれは叶わぬ願いだったようで妻が妊娠する気配はまったくみられなかった。  元気にすくすくと育っている娘は妻に似て運動神経がよく,親ばかと言われてしまうのはわかっているのだが同じ年頃の子ども達より足が速く,鉄棒や縄跳びも誰よりも上手で自慢の娘だった。
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