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妻の手には娘が好んで使っていたキャラクターのバスタオルが握りしめられていた。
ボロボロになってしまったタオルだが,妻はそのタオルを離そうとはせず,何度か洗濯するために取り上げたのだが,タオルが目の届くところにないと悲鳴にも似た奇声を発した。
部屋の空気を入れ替えるために窓を開けると,娘の名前を呼びながら裸足で外に出てしまうので,すべての窓に妻の身体が通らない幅までしか開かないようストッパーを取り付けた。
娘がいなくなってから4年しか経っていないが,妻の時間は完全に止まったままだった。
常に娘を探しまわり,いないと気が付くと泣き崩れ,泣き疲れると眠ってしまう。
食事も自らとらなくなってしまったので痩せ細り,目のくぼみもひどく目立つようになった。
栄養補給ゼリーやビタミン剤などを無理矢理口に押し込んで,なんとか食べさせているが,大人が普通に口にするような食事はまったくしなくなった。
テレビをつけても反応せず,時々画面から流れる子ども達のはしゃぐ声が聞こえると,慌てふためき,娘がどこかにいるんじゃないかと家中を探しまわった。
僕は妻の壊れていく姿を黙って見ているしかできなかった。
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