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ホワイトウルフに襲われた時、それを遠ざけた魔法と同じ響きだ。
だが不思議と、何も起こらない。
何か理由があるのか、グラディスの力がなくなってしまったのか。
悔しげに眉根を寄せるグラディスは、兵の攻撃を身を翻して避けるばかりで反撃のしようがない。
その無様ともいえる姿に、指揮官の男は勝ち誇ったように口の端を上げた。
「無駄ですよ、グラディス様。女王様の加護を受けたそいつらに、貴方の力は通じない。お忘れですか?」
「くっ」
たった一つの出入り口は敵に封じられ、頼みの魔法も使えない。
グラディスは血を嫌って剣などの武器も持ち歩いていない。
この状況ではそれが命取りだ。
防戦一方どころか、殺されることすら確定に近い。
追い詰められて柱を背にするも、もうこれ以上避けられる自信などない。
凶剣が振り下ろされる。
目をつぶり、なんて不甲斐ない終わり方かと自分を責め後悔した。
だがそれは、別の音で途切れた。
カーンッという金属のぶつかる音に目を開けたグラディスは、自分の前でダガーを構えているラクシュリを見て目を丸くした。
彼は振り下ろされた剣を下から受け止め、弾き、敵の喉を切りつけていた。
「ラクシュリ…」
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