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運命を回す旅人
『運命を回す少女はカラントを手にし、凍れる魔女へと刃を向けるであろう』
(カルマスの予言『ラーノ書』より)
デトラント大陸の海の玄関口・ボランは、荷下ろしをする水夫と買い付けた商品をチェックする商人、そして出入の者を監視する役人でごった返している。
長い船旅で縮こまった体を天に向かい一杯に伸ばした少年もまた、手荷物一つを持って甲板を降り始めた。
長い真っ直ぐな黒髪に、大きな緑の瞳を希望や好奇心に輝かせた少年は、とても身軽にステップを踏む。
まるで少女のような愛くるしい顔立ちで、身なりさえ綺麗ならそこそこの家の子に見えただろう。
「おい、そこの坊主!」
スロープを降りた所で少年を呼び止めた役人が、ギロリと睨み付けてくる。
それに、少年はニッと笑った。
「あぁ、身分証明ね。ちょっと待ってよ」
ズボンのポケットをガサゴソと漁る。そうして出てきたのは、出向した港が書かれた書類だった。
「これだけじゃ通すことは…」
うんざりと言いたげな役人。
だが、少年がジェスチャーで「書類を開けてごらんよ」と促すのを見て、役人は閉じたままの書類を開く。
そして、口元にニンマリと笑みを浮かべた。
「通ってよし」
「どーも」
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