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「そして、過去干渉で生じたいろんな不都合は全部、伝説管理課がなんとかする。わかってるよんなことは。……お前、この任務、何回目だ?」
「えーっと、たぶん2桁行ったぐらいですね」
そうか、と年上の船員は、立ち上がって再び計器を確認する。その足で飲用水のパックを手にとると、再び操縦席に深く腰を下ろした。
「ガキの頃は、伝説なんてただの古い空想物語、って思ってた。けど、この任務に就いて、俺はいくつ伝説作ってきたかわからねえ。あっちで山が消えた、こっちで街が消えた。今日みたいに星間交流をなかったことにしたら、そこの血をひく人間がごっそり消えた、なんてこともあった。そのたびに、神隠しだ、伝説だって辻褄合わせて、その工作でまた歴史を変えて……
もうな、何がオリジナルの歴史だったのか、わかんなくなってくんだよ。時々、もうオリジナルの歴史なんてのは跡形もなくなってて、俺たちが今生きてんのは、全部作られた世界なんじゃねえかって気さえしてくる。実際のとこは、誰にもわかんねえけどな」
言い終えると年上の船員は、飲用水を一息に飲み干して、片手でパックを握りつぶし、足下のダスターへ放り込んだ。その隣では、若い船員の白い手が、座席の肘掛けを握りしめていた。
「しゃべりすぎた。あとは資料でも読んでろ」
年上の船員がそう言って投げてよこした小型機器を、若い船員は慌てて肘掛けから手を外して受け取る。ボタンを押すと、若い船員の目の前に、任務の詳細が投影された。目的、手順、相手側の星の情報、干渉によって生じる影響。向こうの星の生物はおおむねヒト型ではあるが、皮膚が発光する性質などから地球人からは気味悪がられており、現時点ではもっぱら星間貿易での交流だったこと。そのため、あらかじめ物流を規制すれば、歴史が変わることでの影響は最小限に留められること。若い船員は、これまでにない集中力で資料を読み込んだ。
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