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2つ目の飲用水パックを手にしていた年上の船員が、あ、と何かを思い出したように声を上げた。
「うちのカーペット、通販であの星から買ったやつだわ。めんどくさくてリコールに出してねえし、帰ったら消えてんだろうな」
決して大きくはない独り言だったが、狭い船内には十分だった。立ち上がった若い船員の顔はひきつり、先刻まで星空と海岸にはしゃいでいた人間とは思えないほどに青白かった。二人の視線がぶつかった。若い船員の膝から小型機器が落ち、投影されていた情報も消えた。わずかな静寂を破ったのは、年上の船員だった。
「歴史を変えるってのは、そういうことだ」
なおも沈黙が続こうとしたそのとき、壁の計器が短くアラーム音を発した。続いて、第1ポイント、通過しました、と機械音声が告げる。
「来たな」
二人は操縦台に向かって、にわかに忙しく手を動かし始めた。チェックポイントごとの通過情報から、正確な到達時間と位置を割り出す。そして反射鏡を微調整する。反射鏡操作レバーを握る若い船員の手は、わずかに震えていた。両手を使ってようやく、反射鏡の位置が安定する。
「よし、いいぞ。そのままだ」
年上の船員の声に続いて、機械音声が10からのカウントダウンを始める。電波可視化装置が作動して、反射鏡と、そこにまっすぐ向かってくる電波が空中に投影された。二人の目が映像を凝視する。
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