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その瞬間は、あっけなく訪れた。この時代のパラボラアンテナは、交信電波をキャッチしなかった。それが歴史になったのだ。年上の船員は、長い息を吐きながら、操縦席に沈み込んだ。
「何度やっても、その瞬間、てのは疲れるな。さて、帰るぞ」
返事はない。レバーの前にも、操縦席にも、若い船員の姿はなかった。年上の船員は弾かれたように立ち上がり、船内を見回す。しかし隠れる場所などどこにもなかった。
それでも船内を歩いて一回りするうち、あることに気がついた。暗いのだ。船の隅には暗闇が溜まり、計器類もやや顔を近づけないと読みとれない。しかし船内の照明に切れているものは1つもなかった。
操縦席に戻り、立ったまま目を閉じて、先刻の瞬間を思い出す。この暗さでも作業に不自由しなかったのは、満天の星空のおかげではなく、船内に、すぐ隣に光源があったからではないのか――。
ふっ、と短い息が、年上の船員の口から漏れた。そのまま、一度も隣に目を向けることなく、船員は時空船を発進させる作業に入る。数十秒後、船は無事に時間航路へと突入した。元の時代へと到着するまでの間、船員は、目を閉じて、胸の前で静かに手を組み合わせていた。
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