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伝説管理課
「おい、余計な足跡つけるなよ」
宙に浮かぶ船から地面に降り立とうとする一人の人間を、船内にいるもう一人が呼び止めた。楕円型をした時空船は、地面から1メートルほどの高さに音もなく静止している。その横腹の扉を開けて腰掛け、今にも船を降りようとしていた人物は、身体を大きくひねり、船内に向かって抗議した。
「こんな星空と海岸を目の前にして、一歩も降りるなって言うんですか」
「星と海なら俺たちの時代にだってあるだろ」
「生の海岸ですよ、生の。やっぱり一回潰して作り直したのとは違いますよ」
それまで年上の船員は、若い船員の言葉を聞き流しながらいくつかの計器を確かめていたが、ついにその作業の手を止め、若い船員の頭を小突いた。
「バカ。足跡なんてつけて帰ったら、伝説管理課に恨まれるぞ。余計な仕事増やしやがって、ってな。それに、カメレオン加工になってんのは船だけ。見られたらおしまいだ。お前は色白で夜でも目立つしな」
若い船員はしぶしぶと言った様子で立ち上がると、先に壁際に戻っていた年上の船員の隣に並び、彼の後に続いて数値を確認する作業を始めた。
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