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「諦めなきゃいけないと思った。でもどうしても、小原との思い出が欲しかった。初めて好きになった人と体を繋げたい。そんな勝手な思いに突き動かされて、僕は小原を襲ってやろうと思った」 日和は自嘲するかのように嗤った。 「結局は小原を怒らせて失敗に終わった。あの時・・・小原に『奏から奪うの?』と聞かれた時、ドキッとした。僕の本心を見透かされたような気がした。大それたことだと分かっているのに、小原を欲しがる自分の気持ちがバレたんだって・・・そう思うと怖かった」 「俺を諦めるつもりだった、ひよさんの気持ちが変化したのは何故?」 「・・・九条大翔に」 「ヒロ?」 「うん。彼に、足掻いてみろよって、必死になって足掻けば手に入るかもしれないって言われて、その気になったんだ」 「・・・あいつ」 「た、単純だと思う。乗せられて、その気になるなんて。でも、欲しい気持ちが止まらない。小原が好きなんだ。諦めることなんて出来ない。したくない」 風太が欲しい。誰にも渡したくないと心が訴えて来る。荒れ狂うほどに沸き起こる、自分の感情の強さに戸惑う反面、そんな自分を初めて愛おしく思えた。 この想いが、世間の常識や良識から外れた行為だと分かっている。必ず傷付く人がいる。それでも欲しがる気持ちを抑えられない。 「ひよさんの気持ちは分かった。嬉しいよ。そんなに情熱的に俺を求めてくれていたなんて。腹立ち紛れにもっと虐めてやろうと思ったけど、止めておいて上げる」 風太から聞こえた不穏な響きに眉を顰めた。 「・・・・・・虐める?」 「うん。あのね、ひよさんは誤解してるんだよ」 「・・・誤解?」 何を言われているのかイマイチ把握出来ず、日和は怪訝な顔で首を捻る。 「そう。奏がどう言ったかは知らないけど、俺は奏と付き合っていないよ。俺には今、彼氏も彼女もいない」 奏と付き合っていない・・・?彼氏も彼女も・・・いない? 風太のセリフが頭の中をグルグルと回った。意味を考え、考えるまでもなくストレートな言葉だと理解する。 日和は目を大きく見開き、シレッとした顔をする風太を凝視した。
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