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聡がその時
片思いをしていた女の子の言葉だった。
その子は別に深い意味もなく、ただ言っただけ。
だけど聡にとっては、それはあまりにも重く残酷な言葉だった。
その時から
怖くなって喋る事を、やめてしまったんだそうだ。
だからまだ私は
聡の声を、聞いたことがない。
「思ったよりおいしいね、ここ」
「・・・・・・」
聡が微笑みながら頷いた。
「・・・・・・」
「あれ、何?」
「・・・・・・」
「え?おなかいっぱいになったの?」
「・・・・・・」
「私にあげるって?でも私もおなかいっぱいだよ。もーいらないってば」
笑う。
私達が二人で会うと、いつもこんな感じ。
聡はいろんな表情と仕草で、私にいろんな事を伝える。
自然と私も聡の事を分析して、言いたいことをわかろうとしている。
「今日はありがとね」
すっかり日が暮れて、もう辺りは真っ暗になっていた。
「・・・・・・」
「いつもごめんね。いろんな事につき合わせちゃって」
「・・・・・・」
聡が、首を横に振る。
「嫌だったら、嫌だって私にちゃんと伝えてね。メールでもいいから」
「・・・・・・」
聡がまた、首を横に振った。
さっきよりも少しだけ大きく、首を振ったように見えた。
「聡は優しいね、いつも」
言葉なくとも
聡は表情と行動で、私に伝えてくれるからいいのだけれど。
だけど、聡がいつも本当は何を思っているのか
私に対してどう思っているのかなんていうのは
それは聡の表情や仕草だけじゃ、やっぱりわからなくて。
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