生霊返し

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 わたしには意中の男がいる。  相手は勤め先の先輩社員で、シュッとしたスマートで紳士的な男だ。しかし、残念なことにわたしはその彼と会話すらしたことがない。手が触れ合う瞬間は、彼のデスクにお茶を置きに行くときぐらいだ。  いつも彼は目を合わせることもなく無言でお茶をすする。わたしはお礼なんて言われたこともない。他の女子社員には愛想がいいのに……そんな彼に一目惚れをしてしまった。  わたしは同僚とも仲が良くない。ネクラな性格がたたり、昼食は決まって会社の近くの小さな公園でひとり。鮭弁当をコンビニで買っては、年季が入ったボロボロのベンチに座って、流れる雲を眺めながら頬張る毎日だ。  鮭の骨がのどに引っ掛かろうが動じない。顔中が汗だくになろうが、ボサボサの長髪にご飯粒がこびりつこうが、わたしはその彼をゲットすることだけを脳内に刻み込むだけ。  こんな風に毎日、彼のことを思っていると、いつしかわたしの念が生霊となって、あの人に憑くかもしれない。でも、それはそれで好都合かもしれない。彼を射止めるためなら、生霊だって飛ばしてやるんだから。
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