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人々が賑わう港町。
店が立ち並ぶ大通りは、裏道に入れば、レンガ調の家々が建ち並んでいる。
裏道に入れば一気に人通りがなくなり、また、建物の陰で薄暗いそこに、男女二人の姿があった。
耳を隠すか隠さないか辺りで切り揃えられた茶色の髪の間を、ほんのりと潮の香りを漂わせた風が撫でていく。
二十歳前後の青年は、金色の瞳を細めて笑う。人当たりの良さそうな微笑は爽やかで、間近で見つめられた女性が、そんな彼に惹きつけられているのは一目瞭然だった。
「な、ちょっとくらいいいだろ」
そう言って青年――ブレイドは、建物の壁を背にする彼女の、長い金髪を指先ですくい上げる。
路地の隙間に差し込む太陽の光が、まるで宝石か何かのように、金色の髪をキラキラと照らしていた。
「えー、でもぉ」
対して彼女は、ほんのりと頬を赤らめながらブレイドを見上げ、身を捩らせる。
誘いにすぐ乗り、軽く見られたくない。けれど嫌ではなく、むしろノリノリ。それがよく分かる、表情と態度だった。
実際彼女は、どうしようと口では言いつつも、金髪を指先で弄ぶブレイドの手に、軽く手を重ねてきている。
「本当に伝説の勇者様なの?」
「本当本当。俺のこの目が嘘ついてるように見える?」
「えー」
「あ、見えない? 本当だってば。俺のむかーしの祖先が、魔王を封印した伝説の勇者。そしてこの俺こそ、つい先日、復活した魔王を……」
そこまで言ったブレイドは、一旦言葉を切る。
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