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(あー……せっかく見つけた上玉が……)
遠くなる背中を視界の端に捉えながら、ブレイドは情けなくて泣きたい気分だった。
格好よく決めて、近くの宿でしけこむつもりだったのに。久々の一人での外出で、やっと巡ってきたチャンスだったのに。
まさか男との痴話喧嘩を見られて、足蹴にされ、あんな風に言われてしまうなんて。
情けなくて、ブレイドは泣きたい気分だった。
「おい」
そんなブレイドに陰がかかる。
ブレイドが顔を上げると、リデルがすぐ傍に立って、倒れたまま起き上がろうとしないブレイドを、赤い瞳で見下ろしていた。
「帰るぞ。ここは人間臭くて気にくわない」
呟き、リデルは嫌そうに顔を歪める。
腹の立つことに、美少年というのは、どんな顔をしても似合う。そんなことを考えながら、気乗りしないながらも「……ああ」とブレイドは頷いた。
緩慢とした動作で起き上がり、砂のついた服や茶髪を軽く手で払う。
「……ん、じゃあ行こう」
ブレイドはそう言って、路地裏から出ようと歩き出す。が、すぐに、リデルが突っ立ったままで動かず、自分について来ようとしないことに気が付いて足を止めた。
「リデル? 帰るんだろ?」
「……こっちの方が早い」
「え?」
ブレイドが聞き返すより、早く。
リデルは器用に自分の背中へ手を伸ばすと、服のボタンを外し始めた。
リデルの服は、背中の側にボタンがついている仕様になっている。着辛いし脱ぎにくい、そんな奇妙なデザインだが、それも仕方のないことなのだ。
何故なら――。
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