アガスティア

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 結局、僕と周平は、真夜中に家を抜け出し、学校の前に集合していた。  門は閉ざされていたが、簡単に飛び越えられる高さである。鍵を開けておいた教室の窓は固く閉ざされていた。用務員がチェックしていたのだった。  想定内である。普段生徒が使わないトイレや体育館の小窓も保険として開けておいたのだ。 「ほら、開いたぞ」周平は勝ち誇った顔で窓をスライドさせていた。  街灯の光が窓から入り込むため、廊下は懐中電灯がなくても歩ける明るさだった。真っ直ぐ職員室に向かいドアを開けた。 「俺は棚を調べるから、お前は先生の引き出しの中を調べてくれ」周平は過去に同じことをしているかのように慣れた段取りで指示してきた。  僕は言われるがまま担任のデスクを漁った。誰かに見つかれば建造物侵入で逮捕だ。停学では済まないだろう。しかしどんなに探しても、それらしきファイルを見つけることはできなかった。 「長居するのは危険だから、そろそろ帰ろう」弟が年の離れた兄に乞うように、僕は周平に小声で提案した。 「もう少しだけ、待ってくれ」  その時だった。足音と男女の会話が静かな廊下に反響していた。  僕たちは職員室の一番奥に移動し、避難訓練の時でさえも真面目に机の下に潜ったことがないのに、この時ばかりは身を寄せ合いながら隠れていた。鼻と口を手で塞いで呼吸音を遮断。服がこすれる音でさえも騒音に感じる。
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