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僕は賽銭箱の形をした貯金箱を逆さまにして、床に散らばった紙幣と小銭を数えた。
10万円まで残り1万円。受験が終わった時にゲームを買おうと思いコツコツと貯めてきた全財産である。
「姉ちゃん、開けていい?」僕は気づいたら姉の部屋のドアをノックしていた。
「なに?」日本語の分からない外国人が聞いても、姉の機嫌が悪いことに気づくだろう。
「ちょっとしたお願いがあるんだけど」僕は静かにドアを開けた。
「ちょっとというのは、お金に換算したら千円未満だから」姉はいつも通りベッドで横に
なりながら、スマホをいじっていた。
「俺が来ること、小説に書かれていたの?」
「あんたなんて私の人生の脇役にもなっていないわ」
「1万円を貸してくれたらすごく嬉しいんだけどな?」
「アガスティアで未来小説を読もうとしてるでしょ?」
「・・・・・・うん」
「そんなお金があるならさ、参考書を買ったほうがいいよ。未来小説なんか読むより、よっぽどあんたの未来がはっきりと見えてくるから」
「このとおり」僕は手を合わせて頭を下げた。去年の墓参り以来だ。
「絶対に返しなさいよ」姉はそう言うと、財布から1万円札を抜き取って手渡ししてくれた。なんだかんだいって、弟に甘い姉である。
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