アガスティア

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 最後の夏休みは着々と忍び寄っていた。  玉砕覚悟で小宮に告白すべきだという周平のお節介なプレッシャーは、日増しに強くなっていった。  僕の心の中には、それ以上に重大な問題が引っかかったままになっている。父親の会社が存続するのかどうかという問題だ。これは子供にとって死活問題である。今父親が無職になってしまえば、ギクシャクした夫婦関係は確実に崩壊するだろう。そして大学の費用だ。母1人の収入では、姉弟の学費を捻出するのは困難である。  放課後は教室に残り、自習をすることにした。 「小説で合格と出ていたんだから、そんなに勉強しなくてもいいだろ。俺は用事があるから帰るから」周平は時計を気にしながら教室を出ようとした。 「ただ合格するんじゃなくて、無利息の奨学金を目標にしようかなと思ってさ」 「はあ? お前んち裕福だろ」周平は足を止めた。 「もしかしたら親父の会社が倒産するかもしれないんだ」 「マジで?」 「未来小説に書いてあった・・・・・・」 「でも、当たるとはかぎらないだろ?」 「・・・・・・お前は本当にプラス思考だよな。小説に書かれている良いことはそのまま受け入れて、悪いことは信じない」僕は笑った。 「それぐらいがちょうどいいんだよ。じゃあね、帰るわ」 「ああ」
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