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人のいなくなった教室では、僕がノートに書き込む鉛筆の音がカリカリと鳴り響いていた。グラウンドで部活をしている後輩の笑い声が時折窓から侵入し、集中力を途切れさせる。薄暗くなりつつある教室の電気をつけようと思い立ち上がった瞬間だった。
木下が突然教室に入ってきた。
僕以上に木下は驚いた表情を見せていた。木下は何も言わずに下を向いたまま窓際の自分の席に座ると、参考書を開いていた。
「今日は仕事ないの?」僕は周平との約束を破り、木下の秘密に触れていた。
「え?」木下は顔をこわばらせながら斜め後ろにいる僕の方を見た。
「いや、冗談だよ」僕はすぐに後悔していた。やはり触れてはいけないことだったみたいだ。
「・・・・・・どこまで知ってるの?」
「アイドルやってることくらい、かな」僕は手のひらに汗をにじませていた。まっすぐに僕を見つめるその目つきに、恐怖すら感じていた。
「誰から聞いたの? もしかしてアガスティア?」
「・・・・・・隠す必要なくね? なんでアイドルやってることを隠す必要あるの?」
「質問に答えてほしいんだけど。誰から聞いたの?」木下の口調は徐々にキツくなっていった。
「ごめん、アガスティアを読んだ・・・・・・」
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