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「最悪」そう言うと、木下は分厚いメガネを外して涙ぐんだ目を手でこすっていた。
僕は初めて見る木下の素顔に息が止まりそうなくらいに驚いていた。それまで僕がカワイイと思っていた小宮など足元にも及ばないほどの美女がそこにいた。赤く染まりかけている窓の外の風景に溶け込み、絵画のような美しさだった。
毎日のように会ってきた人に一目惚れすることなんて、初めての経験である。やはりプロは違う。男を一瞬で落とす魔性を秘めている。
「本当にごめん。絶対に秘密にするから」
「他にも知ってる人いる?」
「・・・・・・周平と一緒に読んだ」僕は正直に言った。
「あの人、口が軽そうだけど」
「いや、そんなことないよ。軽そうにみえるけど、意外に男気があるんだよ」
「そう・・・・・・うちの学校って校則が厳しくてさ、芸能活動は原則禁止なんだよ。学校にバレたら面倒くさいことになる。親が呼ばれたりとかしてさ」
「そうなんだ・・・・・・絶対に秘密にするから安心してよ。卒業したら、本格的に芸能活動するの?」
「・・・・・・」木下は寂しそうな目で僕を見つめていた。
「あ、もうこの話は止めたほうがいいね」
「いや、いいよ別に・・・・・・」木下は観念したかのように言った。「わたしさ、放課後は劇場でステージをこなしているから、勉強が全然ついて行けなくなっていて、結構やばいんだよね。卒業できなくなったらシャレにならない」
「そっかぁ、大変だな」
「佐野くんって成績いいでしょ?」
「まあ、悪い方ではないよ」
「勉強教えてくれない?」木下は少しだけ頬を緩ませていた。その妖艶な表情を見るなり、僕は完全に落とされていた。
「うん。もちろんいいよ。よろこんで」
「やった?」木下はきれいな歯並びを見せつけるかのように口を大きく開いて喜んでいた。
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