アガスティア

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「なんだよそれ。誰が書いてんの?」僕は鼻で笑いながら訊いた。 「AI。人工知能だ」 「・・・・・・」 「あの会社にはあらゆる情報が蓄積されているんだよ。俺達が普段触っているスマホの情報はもちろんだし、PCに保存されている情報は全てダダ漏れなんだろうな。試験の成績だって先生はPCに打ち込むだろうし、尿検査だって全てデータとして保存されているはずだ。きっと遺伝子情報や指紋、監視カメラの映像、GPSによる行動パターン、あらゆるすべての情報を握られているんだと思う。今こうして話している会話だって、スマホのマイクを通じて聞かれている可能性もあるんだ。それらの情報を元に、人工知能が小説を書き上げて発表しているんだ」 「それが本当だとしたら大問題だろ」僕は少しだけテンションが高くなり、前のめりになっていたが、まだ半信半疑だった。 「小説の中身は、個人名や地域はイニシャルで書かれているし、そもそも俺がお前の小説を読もうと思っても、辿り着けないよ。小説を絞り込む時の質問事項に答えられないもん。俺はお前の血液型や誕生日、家族構成、親の名前と誕生日なんて具体的に知らないし」 「だとしたら俺も自分の小説を読めないわ。親の誕生日なんて知らねーし」 「・・・・・・お前に彼女ができない理由がよくわかったわ。女はそういう記念日とかやたら大事にするからな」周平はため息を付きながら言った。 「記念日に何の意味があるんだよ。同じ1日だろ?」 「少年の秘密基地みたいなもんだよ。自分たちしか知らない場所だから価値があるんだろ? 記念日も一緒だ。二人しか知らない日だから意味がある」 「・・・・・・ところでそれは無料なの?」僕は強引に話題を変えた。 「あの会社はなんだって無料だろ」 「タダほど高いものはないというけどね。記念日だって、結局は金が掛かる日になるんだし」
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