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授業が終わるのと同時に、周平が嬉しそうな顔で振り向いた。
「悠介、自分の小説、読めたか?」
「いいや、やっぱり無理だった。強力なセキュリティーに阻まれている」
「そうか。家に帰ってから、親に聞けばいいよ」
「うん・・・・・・だけど勘違いされないかな? 息子がいきなり誕生日を訊いてきたら、期待させちゃう気がするんだけど」
「一緒におじいちゃんやおばあちゃんの誕生日も訊いておけばいい。親の小説を読む時に使えるし」
「親の過去なんて知って、面白いのか?」
「すげー面白いよ。過去を知るというのは弱みを握るのと同意義だ。親子喧嘩をした時に、親にダメージを与えることのできる強力な呪文を手に入れたようなものだ」周平はやたら嬉しそうに語っていた。
「興味はあるけど、知りたくはないわ」
「自分の母親が過去に風俗嬢やってたことを知ってしまった人たちがサイトを立ち上げて、互いに慰め合ってるらしいからな。そういうのを知るのはちょっとキツイかもな」
「ちょっとどころじゃねーよ」
「有名人なんて大変だろうな。タレントの本名とか生年月日みたいな個人情報なんて、ネットで探せばすぐに出てくるし。戦々恐々だろ。近々、アイドルグループの女の子がまとめて一気に引退するらしいよ。男性遍歴とか他人に伏せていた過去が丸裸にされてしまったんだってさ」
「最悪だな、それ」
窓際の席に座っている小宮に僕が一瞬だけ視線を送ると、周平はそれを見逃さなかった。
「お前、小宮の過去を読みたいと今思っただろ?」周平はかすれ声を出した。
「ねーよ」図星だった僕の顔は熱くなっていった。
「タレントと違って、一般人の個人情報をゲットするのはかなり難しいぞ。今ならみんなアガスティアのことを知っているから警戒してるだろうし」
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