第1章

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 そういってすぐさまロイは肩に手を回してくる。 でも、独り言を見られたことが恥ずかしくて、私はするりとその手を払いのけた。  「もう、見てたなら最初から手伝ってよ……」  「洗濯するときに声をかけてくれたら、手伝っったのに」  ロイが笑いながら、洗濯のカゴをひょいと両手に持つ。  「これ、運べばいいのか?」  「あ、うん。ありがとう」  「いいってことよ! 女に重いもの持たせちゃいけねぇってばーちゃんも言ってたし。特に好きな女は大事にしなけりゃな」  「……もう! ロイはすぐそういうこと言うんだから!!」  でも……なんでロイは私のこと好きなんだろう?  ロイは私のこと、大好きだ、キスしたい……って口に出すけど、本気にとっていいのかな。  天気とは裏腹に、私の心はほんの少し曇った。  「う~? なんかこれどうなってるんだ?」  声にハッとして、ロイに目を向けなおすと、ロイが洗濯物の中から引っ張り出した服を、よれよれのまま干そうとしている。  「あーもう、めんどくせー。これでいいや!」  「ちょ、ちょっと! それじゃダメよ!」  「洗濯物なんて乾けばいっしょだろ?」  「ダメダメ! もう、干す順番とかいろいろあるの!」  「ふ~ん。洗濯もめんどくせーもんなんだなあ」  ロイから洗濯物を奪い返して、一旦カゴに戻す。  ロイに適当にやらせてたら、よれよれのしわくちゃのまま乾いて後で大変なことになっちゃうわ。  手伝いがうまくいかなくて、ふてくされているロイに声をかける。  「干すのは私がやるから、ロイは私が言った物を手渡してくれる?」  そう言ったとたん、ロイの顔がパーっと明るくなった。  「おう、いいぜ!」  まずはシーツから、と声をかけると、ロイはまさに尻尾を振って嬉しそうに勢い良く投げて寄越した。  「もう、ロイ。これじゃあダメなの」  「えー、なんでだよ?」  「洗濯物を渡す時にはね、こうやって……皺を伸ばしてから相手に渡すのよ?」  「ふ~ん、ハルちゃんはこのまま渡してもそんなこと言わなかったけどなぁ」  ……む。  またおばあちゃんの話。  私のこと好きだって言うくせに、ロイはすぐおばあちゃんのことを口にする。  私はロイを放っておいて、黙ったまましばらくシーツを干し続けた。  「あれ、もう手伝わなくていいのか?」   何も気づかないで呑気に聞いてくるロイ。
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