第1章

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 人の気も知らないで……。  「……ロイって、本当はおばあちゃんのほうがいいんじゃないの」  シーツに隠れるようにして、思わず呟いてしまった。  シーツの向こうからロイがちょっと怒ったような声を返してくる。  「なんでそうなるんだよ! そんなこと言ってねーだろ!?」  直情的な声を聞いて、私も新しい洗濯カゴを抱え上げながら反射的に答える。  「だって、ロイが本当に私のこと好きかどうかなんて、わからないもの!」  「なんでだよ、いつも俺はかなたのこと大好きだって言ってるじゃん!!」  「そんなポンポン言われても、信じられないわよっ!」  「言わなきゃ言わないでわかんねーだろ!」  「言われすぎても信じられないもの! この前の……」  「この前?」  「こ、告白だって、勢いだったんじゃないの!?」  「……ちっ」  「……」  ――バサッ  ロイがものすごく真剣な顔でシーツの奥から現れた。  「俺の言うことが信じられない?」  「……」  真剣な眼差しに私はなにも答えられずに、黙り込んでしまう。  「……だったら、信じさせてやるよ」  「……!」  シーツの影に隠れるように、ロイが急に顔を近づけてそのままキスをされた。  選択カゴを持っているので、手が塞がって逃げようがなかった。  ロイの唇は優しく柔らかくて、私はそっと目を閉じる。真剣さの伝わる熱いキスだった。  ほんの短い時間なのに、とてもそれは長く感じて……。  目を開けると、ロイが穏やかな顔で覗き込んでいる。  私は恥ずかしくなって、思わず下を向く。  「俺……ハルちゃんには、一度もキスはしたことなかったぜ。本気でしたいと思ったのは、かなただけだ」  優しい声をかけられて、ドキドキする。  「……う、うん」  「俺は本当にお前のことが好きだからな。……信じてくれるよな?」  ロイはそう言って、私の手の中からカゴを奪い取った。  「言うとおりにやるから、ちゃんと教えてくれよな。俺、こんなことでかなたに嫌われたくないんだから」  「うん、わかった……ゴメンね」  「とっとと終わらせて、飯にしようぜ! 腹減ってきちゃったよ!」  ロイはいつものようにふざけて笑う。  「あ、うん……そうだね」  ロイが洗濯物を見よう見まねで、パンパンと皺を伸ばし始める。  なのに、私はまだぼーっとしてしまって、上手く干せなかった。
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