第2章

8/10

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 「かわいいこと言ってくれるぜ」  大人っぽくはなったけれど、その悪戯っぽい笑顔は昔とちっとも変わらない。  「そうだ、久しぶりに新婚さんごっこしようぜ。お前に見せたい物があるんだ」  そう言うとロイは私を抱き上げた。  「えっ?」  「わっ、すごい・・・・・・」  私を抱え上げたロイは、ひょいとジャンプするようにして屋根の上まで飛んだ。  「どうだ? 驚いたか?」  そう言って得意そうに胸を張るロイの姿は、やっぱり昔とちっとも変わらなくて・・・・・・私は思わず吹き出しそうになるのを我慢した。  「うん・・・・・・」  「じゃ、もっとおまえを驚かしてやるよ。ちょっと後ろを向いてろよ」  「うん」  ごそごそという音が聞こえた後。  「もう、こっち向いていいぞ」  その声に振り返ると、そこにはなんと・・・・・・金色の狼がいた。  満月の光を浴びて、大きな四股と、それを包んできらめく美しい毛並み、瞳もとても澄んでいて・・・・・・なんて・・・・・・綺麗なんだろう・・・・・・思わずため息が漏れる。  一瞬、月の化身かと錯覚しそうになるけれど、・・・・・・私には、それが誰なのか、もうわかっていた。  「・・・・・・」  身じろぎもせず、見とれる私に、何か誤解したのか、しょんぼりと狼は頭を下げた。  「う~ん、やっぱり・・・・・・狼の姿は怖いのかなぁ?」  凜々しい姿と裏腹に、ため息混じりのちょっと情けない声。  その声と姿のギャップがかわいくて、お思わず私は我慢できなくなった。  馬鹿ね・・・・・・そんな訳無いじゃない・・・・・・」  しょげたその首に、思いっきり飛びつくと、ぎゅっと、抱きしめた。  「狼でもなんでも・・・・・・ロイなら怖くないわ」  ふさふさの、毛並みに顔を埋めると、鼻をくすぐる、獣の匂いと、月の光の混ざった不思議な香り。  ちょっとだけ大人になったロイの、懐かしい、しっぽの・・・・・・香り。  「かなた・・・・・・」  私の腕の中でゆっくりと変化していくロイ。  月の化身から、私が待ち焦がれた恋人へと変貌を遂げたその人は、逆に抱きしめ返してきた。  「俺、頑張ったんだ・・・・・・お前を守るために、いっぱいいっぱい修行した。だって、半端な力じゃお前を守れないからさ」  そう言うロイの腕の太さや細かく残る傷に、その決意がどれだけ深かったのか、感じとれた。  
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加