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「かわいいこと言ってくれるぜ」
大人っぽくはなったけれど、その悪戯っぽい笑顔は昔とちっとも変わらない。
「そうだ、久しぶりに新婚さんごっこしようぜ。お前に見せたい物があるんだ」
そう言うとロイは私を抱き上げた。
「えっ?」
「わっ、すごい・・・・・・」
私を抱え上げたロイは、ひょいとジャンプするようにして屋根の上まで飛んだ。
「どうだ? 驚いたか?」
そう言って得意そうに胸を張るロイの姿は、やっぱり昔とちっとも変わらなくて・・・・・・私は思わず吹き出しそうになるのを我慢した。
「うん・・・・・・」
「じゃ、もっとおまえを驚かしてやるよ。ちょっと後ろを向いてろよ」
「うん」
ごそごそという音が聞こえた後。
「もう、こっち向いていいぞ」
その声に振り返ると、そこにはなんと・・・・・・金色の狼がいた。
満月の光を浴びて、大きな四股と、それを包んできらめく美しい毛並み、瞳もとても澄んでいて・・・・・・なんて・・・・・・綺麗なんだろう・・・・・・思わずため息が漏れる。
一瞬、月の化身かと錯覚しそうになるけれど、・・・・・・私には、それが誰なのか、もうわかっていた。
「・・・・・・」
身じろぎもせず、見とれる私に、何か誤解したのか、しょんぼりと狼は頭を下げた。
「う~ん、やっぱり・・・・・・狼の姿は怖いのかなぁ?」
凜々しい姿と裏腹に、ため息混じりのちょっと情けない声。
その声と姿のギャップがかわいくて、お思わず私は我慢できなくなった。
馬鹿ね・・・・・・そんな訳無いじゃない・・・・・・」
しょげたその首に、思いっきり飛びつくと、ぎゅっと、抱きしめた。
「狼でもなんでも・・・・・・ロイなら怖くないわ」
ふさふさの、毛並みに顔を埋めると、鼻をくすぐる、獣の匂いと、月の光の混ざった不思議な香り。
ちょっとだけ大人になったロイの、懐かしい、しっぽの・・・・・・香り。
「かなた・・・・・・」
私の腕の中でゆっくりと変化していくロイ。
月の化身から、私が待ち焦がれた恋人へと変貌を遂げたその人は、逆に抱きしめ返してきた。
「俺、頑張ったんだ・・・・・・お前を守るために、いっぱいいっぱい修行した。だって、半端な力じゃお前を守れないからさ」
そう言うロイの腕の太さや細かく残る傷に、その決意がどれだけ深かったのか、感じとれた。
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