金平糖の夢

2/21
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
 見えないふり聞こえないふり気付かないふり。  それを徹底したおかげで、今では目の前にゾンビみたいなのが降って来ても、動じずにいられるようになった。どんだけ毛が生えたんだ、ぼくの心臓。  ……そんな訳で。ぼくの目には、普通の人が見えないものが映る。  そして、それを何があろうとスルーしまくるのが、今の、高校生になったぼくの日常だ。 ***  ずだだだだ!! とけして静かでない音とともに路地を駆け抜ける。──いや、駆け抜けるなんて爽やかなものではない。猛ダッシュだ。  なんとなくの方向感覚を頼りに角を直角に曲がる。勢いが付きすぎて転びかけたが、手を付いてなんとか持ちこたえた。確認している余裕は無いが、怪我がないといい。  高校生にもなって、運動部以外でこんなにダッシュする機会がどれだけあるだろう? 少なくとも、インドアを公言しているぼくには無きに等しいはずだ。普通なら。  そう、────普通なら、なのだ。  「待てえぇぇぇ!!!」  ──待てって言われて誰が待つかよ!  後ろから響いて来た太い声に必死で速度を上げる。ちらりと振り向くと、曲がった角から、丁度毛むくじゃらの手が生えたところだった。     
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!