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見えないふり聞こえないふり気付かないふり。
それを徹底したおかげで、今では目の前にゾンビみたいなのが降って来ても、動じずにいられるようになった。どんだけ毛が生えたんだ、ぼくの心臓。
……そんな訳で。ぼくの目には、普通の人が見えないものが映る。
そして、それを何があろうとスルーしまくるのが、今の、高校生になったぼくの日常だ。
***
ずだだだだ!! とけして静かでない音とともに路地を駆け抜ける。──いや、駆け抜けるなんて爽やかなものではない。猛ダッシュだ。
なんとなくの方向感覚を頼りに角を直角に曲がる。勢いが付きすぎて転びかけたが、手を付いてなんとか持ちこたえた。確認している余裕は無いが、怪我がないといい。
高校生にもなって、運動部以外でこんなにダッシュする機会がどれだけあるだろう? 少なくとも、インドアを公言しているぼくには無きに等しいはずだ。普通なら。
そう、────普通なら、なのだ。
「待てえぇぇぇ!!!」
──待てって言われて誰が待つかよ!
後ろから響いて来た太い声に必死で速度を上げる。ちらりと振り向くと、曲がった角から、丁度毛むくじゃらの手が生えたところだった。
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