金平糖の夢

5/21
前へ
/21ページ
次へ
 「食われてやらなくて悪かったな。でも、ぼくだって食われるわけにはいかないから」  そう言って、ぼくは悔しそうに去っていく妖怪の背中を見送った。  「……ちょっと休んでいくかな」  境内の木陰にある石段に座り込んで、滝のように流れる汗を拭う。夏にこれだけ走ったのだから当たり前だ。  体から湯気が出ていないのが不思議なくらい暑い。  目を閉じてふぅっと息をつくと、どこからか涼しい風が抜けていった。さやさやと木の葉が鳴る。  街中でも、こういった場所は不思議と暑さが和らぐ気がする。  木漏れ日がちらちらと眼裏に揺れているのを感じながら、汗が風に冷やされていくのにほぅっと息をついた。    (あんな妖怪この辺にいたっけなぁ……?)  ふと、先ほど鬼ごっこを繰り広げた妖怪を思い出す。この辺りは、ぼくが小さい頃から慣れ親しんできた地域だ。当然見知った妖怪も多い、というより、知らない妖怪はまずいない。  そのぼくが知らないとなると、  (新参者か?)  ぼくを食べる気満々だったようだし、あの様子では何にでも食いついていきそうだ。  雑食動物でももうちょっとマシなのでは無いだろうか。  (風音様に手紙でも書いておくか……)  『風音様』はこの辺りの土地神様で、ぼくが今いるこの神社に祀られている。     
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加