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「食われてやらなくて悪かったな。でも、ぼくだって食われるわけにはいかないから」
そう言って、ぼくは悔しそうに去っていく妖怪の背中を見送った。
「……ちょっと休んでいくかな」
境内の木陰にある石段に座り込んで、滝のように流れる汗を拭う。夏にこれだけ走ったのだから当たり前だ。
体から湯気が出ていないのが不思議なくらい暑い。
目を閉じてふぅっと息をつくと、どこからか涼しい風が抜けていった。さやさやと木の葉が鳴る。
街中でも、こういった場所は不思議と暑さが和らぐ気がする。
木漏れ日がちらちらと眼裏に揺れているのを感じながら、汗が風に冷やされていくのにほぅっと息をついた。
(あんな妖怪この辺にいたっけなぁ……?)
ふと、先ほど鬼ごっこを繰り広げた妖怪を思い出す。この辺りは、ぼくが小さい頃から慣れ親しんできた地域だ。当然見知った妖怪も多い、というより、知らない妖怪はまずいない。
そのぼくが知らないとなると、
(新参者か?)
ぼくを食べる気満々だったようだし、あの様子では何にでも食いついていきそうだ。
雑食動物でももうちょっとマシなのでは無いだろうか。
(風音様に手紙でも書いておくか……)
『風音様』はこの辺りの土地神様で、ぼくが今いるこの神社に祀られている。
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