金平糖の夢

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 もう何度目かの問いを投げかければ、目の前の男はへらりと笑ってまた同じ答えをよこした。  金髪に近い薄茶の髪に、日に当たれば金に光る色素の薄い目──驚いたことにどちらも自前だという──に、人をくった態度。  いかにもチャラ男です、といった風体のこの男とぼくが知り合ったのは、夏休みに入ってすぐの頃だった。  夏休みに入ると、一応美術部のぼくは一人、クーラーも無い美術室でひたすらに絵を描いていた。ほぼ名前だけの部のせいで、誰も来ない、一人だけの空間で絵を描き続けて数日後、突然先客が現れたのだ。    『その絵、お前の?』  入り口に突っ立ったままのぼくをよそに、筆を走らせるキャンバスから目も離さず、そいつは言った。  午前中なのに蒸し暑い教室の中、分かりやすく描きかけの絵は一枚しかない。  『そう、ですけど。……見たんですか?』  『うん、綺麗だな』  『……ありがとう、御座います』  真剣に、本当に真剣な声で言うものだから、ぼくは思わず照れた。自然と目が下を向く。  そうして目を逸らし、顔を上げると、声の感情ををそのまま写したような瞳と目が合った。  『絵、描こうぜ』  なにも考えないまま頷いた。今でも、どうしてあの時、と不思議に思う。  ただ、ぼくらの変な付き合いはあの日から始まった。     
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