第49回 美人局(つつもたせ) 情報屋(ねたもと)

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 加助には幼子がまつわりついている。加助は持ち前の菩薩顔をほころばせているが、文吉はうって変わって仏頂面だ。町中で迷子になっていた幼子を拾い、面倒を見ると言い出した。加助の唯一の道楽、人助けが始まったのである。  彼らが住んでいるのは「千七長屋」という。差配人の儀右衛門が営む質屋「千鳥屋」の「千」と「質(七)」をかけての名だ。ところが、周囲では「善人長屋」と呼ぶ。加助を筆頭に、店子(たなこ)が揃って善人と噂されているからだ。  世間の噂は当てにならない。長屋は、善人どころか、思いもかけぬ裏稼業を持つ、悪党連の巣窟(そうくつ)なのであった。そんな長屋で育ったお縫は、一目で善人と悪人の区別がつくようになっていた.  儀右衛門にしてからが、裏稼業を持っている。質屋と差配人をしながら、裏で盗品を買い取る故買屋をしているのだ。髪結い床を表看板する一方で情報屋(ねたもと)をしている半造、文書の偽造が十八番の浪人・梶新九郎、美人局(つつもたせ)の唐吉、文吉の兄弟らである。  世間様の物差しでいえば小悪党なのだろうが、困っている人を見るとついつい手を差しのべてしまう、情にもろい連中なのである。  根っからの善人・加助が6人兄弟を連れ帰った頃、町奉行所の見習い同心・白坂長門が長屋に姿を見せ、「善人を気取る者ほど、胡散(うさん)くさい」と言い放つ。
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