第3章

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       ぼくは、あんまり時計を見ない方。窓から見える光の色で、なんとなくわかるし。     「天気悪いッスね、佐々木さん」  佐々木さんは外も見ず、ぼくの声にも答えず、口におかゆを運ばれているのもわかっているのか、いないのか、ただ黙々と食べ物を咀嚼することだけに意識を向けていた。        ぼくは佐々木さんが嫌いじゃない。佐々木さんは白髪を短く刈り上げた小柄なおじいさんで、枯れ枝のような手をしていて、あまりものをしゃべらなくて大人しいけど、思い通りに行かないと時々暴れる。        ぼくを見ていなくても、何も聞こえていないようでも、瞳は濁っていなくて、いつも目が物を言っているようで、だから、老人だろうと、介護されていようと、物をしゃべらなかろうと、あまり弱々しい気がしない。やせてしわしわで弱々しい肉体の中で、ほんとははっきりとした何かがあって、それを敢えて隠してるんじゃねぇか?って、思うこともある。
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