第3章

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       ここに来る人はみんなそうだ。ぼうっとしていても、何かを忘れてしまっても、肉体が衰えても、体の中にはかなりのエネルギーを温存していて、どんどん素に戻って、本能に忠実になって、折に触れて、奥にあったほんとの自分をさらけ出す。それが結構な強さで、手ごわくて、ぼくは時々負けそうになる。  あの目の奥にある、マジなもの。怖いくらい、澄んでる何か。ちゃんと見られてる。ちゃんとわかられてる。なんか理屈じゃない深いところで、行動や言葉や表情じゃなく感覚で。わかってんのかな、みんな。誰も教えてくれなかったほんとのこと。人間が体の核に宿してる、侮れないもの。        専門学校で、そういうこと教えた方がいいのに。そんなのいきなり出されたら、マジで面食らうぜ。逆にこっちが問われる。おまえ、できんのかよって。        利用者さんは、わかってもらえないことや伝わらないことがあると元気がなくなる、落ち込む、混乱する、暴れる。一歩まちがえれば、ケガや事故につながる。いつだって、交換条件みたいに突きつけられてる。        だから、こっちだって真剣にやらなきゃいけない。想像以上にヤベえ仕事なんだぜ、これは。そんなふうに思うのは、あんたがひよっ子だからだとほかのスタッフに笑われる。人生の経験が少ないからだと言われる。        ああ、そうなのか。スタッフがみんなそれを知ってて働いていたとしたら、確かにぼくはひよっ子だ。だってはじめてついた仕事が、これなんだから。        で、外は気象予報士の読みが的中して強風。雨まで降ってる。当たるとどんな天気でも、周りの人がヤケに納得してるとこがウケる。仕事が終わってもこんな天気だったら、駅まで歩くのヤダよ。もう一度外を見た途端、それは来た。
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