第5章

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   ぼくが時々代役をしているゆうちゃんは、五十歳を過ぎた竹田さんの息子で、電気メーカーの営業をしている。  結婚していて、大学生の息子が二人と、歳が離れて生まれた小学生の娘も一人いる。営業だから定時で終わる仕事じゃないし、家も仕事も大変で忙しくてなかなか竹田さんに会いに来られない。        でも、来られない理由は、そればっかりじゃないかもしれない。        竹田さんはこの施設に来るまで、入居のリクエストをしてからかなりかかった。認知症の症状はずいぶん前から出ていて、その間どんなに大変だったかを、ぼくは一度、息子のゆうちゃんから聞いたことがある。        家族崩壊寸前だったというその話を聞いても、ぼくはたいして動揺しなかった。二十四時間、誰かが誰かのケアをするなんて無理なんだ。でも、家族はそれをやろうとして、壁にぶち当たる。そのために、施設がある。だけど、SOSを発してもその施設にすぐには入れないという、過酷な現状。
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