第6章

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       庭の真ん中らへんにある池の前で立ち止まった竹田さんが、それっきり動かなくなった。ぼくはちょっと慌てて、何か具合が悪いのかと竹田さんを覗き込み、肩など少しゆすってみた。やっぱり、竹田さんは動かない。  ほかのスタッフを呼びに行こうと思ったところで、竹田さんがようやく動いた。        池の傍にしゃがみ、水を見て、竹田さんは言った。       「超新星という言葉を知っていますか?」 「え?」 「超新星という言葉を知っていますか?」 「ええと・・・・超新星、どっかで聞いたことあるなぁ。あ、韓国のアイドルグループでしたっけ」  竹田さんはそのぼくの答えを無視して、また水を見る。        これは竹田さんに限らず、利用者さんの多くに言えることなんだけど、見当違いに思える質問や問いかけをしながら、彼らは独自の鋭敏なアンテナで、相手の答えが自分への的確な答えかどうか、鋭く感知する。  嘘や適当な答えはちゃんと選別されて、彼らの心をすり抜けて落ちる。        その時のぼくは適当じゃなくて、ほんとにそう思いついたから言ったんだけど、竹田さんのアンテナに引っかかるものじゃなかったみたいで。
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